エッチが上手ってどういうこと?『女風 歌舞伎町のセラピスト』から読み解くセラピストのテクニック
幾人もの女風のセラピストや、ユーザーに取材を重ねてきた中でわたしの中に生まれたのは「エッチが上手いとは、どういうことなのか」という疑問だった。大概の女風のセラピは「上手いって言われます」とユーザー側からの評価を根拠にして断言するし、実際に口コミを見てもそう書かれているから、本当に上手なのだと思う。
一方でユーザーは「とにかく気持ちいい」「これまでしてきたエッチと全然違う」など熱っぽく洩らす。さして思い入れのない相手とよりも、好きな相手とのほうが気持ちいいというのが通説だと思うのだが、初対面もしくは、指名すらせずに即メンを相手にしたというユーザーすらも「今までで一番気持ちがよかった」などと語ってくれるのが、不思議でしかたなかった。
愛や恋の底上げなしでも、至高のめくるめく快感を女性に与えることができるからこそ、プロなのだろうが、具体的なそのテクニックとは。その疑問を解決する方法がひとつだけある。それはわたしが実際に女風のセラピストの施術を経験してみることなのだけれども、あいにくその予定は今のところなく、ひたすらに「エッチが上手いとは、どういうことなのか」と頭を悩ませていた。
ところが先日、一冊の本を読んだことで、その疑問が解決した。官能小説界でトップの人気と実力を誇る草凪優氏の新刊『女風 歌舞伎町のセラピスト』(著:草凪優 実業之日本社)である。
本書は5人のヒロインが登場する短編集だ。仕事にかまけた結果、夫とセックスレスに陥ってしまったバリキャリの人妻、結婚を目前に長年の性的願望を実現させたいと考える二十代女子、EDに悩む夫にネトラレプレイを提案される年下妻、婚活を成功させるためにセカンドバージンを捨てたいと望むアラサー、そして脳イキを経験してみたいと考える冴えない腐女子。それぞれの切実さを抱えて女風のトビラを叩いた5人のヒロインが、20代の若手セラピストからおじピまで、年齢もタイプも違ったセラピストの施術を受け、これまで経験したことのない快感を得て、女風の真髄を体感することとなる。その「これまでの性体験とどう違うか」が、全編に渡り、草凪優の巧みな筆でつまびらかにされていたのだ。
野上のサービスはマニュアル通りの味気ないものではなかった。こちらの反応をつぶさにうかがい、タイミングを見極めなければ、ここまでのことは絶対にできないはずだ。もちろん、指技や舌技も抜群にうまいのだが、それ以上に女の気持ちを見透かすのがうまい。見透かしたうえでぎりぎりまで焦らし、こちらの予想を上まわる刺激を与えてくれる。(第一章 男を買う P36L8‐13)
「こちらの反応をつぶさにうかがい」「女の気持ちを見透かし」て「ギリギリまで焦らす」。むろん一般の男性であってもこういった技術を持ち、実際に女性に試みている者も存在するだろう。しかし、プライベートのセックスでは互いの関係は基本的にフラットであるからだいたいの場合に「互いが気持ちよくなる/気持ちよくしあう」という前提がついてくる。ゆえに、場合によっては自らの快感と相手へ快感を与えることのどちらを優先するかという葛藤が生じる。もちろんそれもまた、セックスの醍醐味ともいえるが……ということはさておいて、客とセラピストという関係性においては、セラピストは己の肉欲を優先させないがゆえに、ある意味で冷静にユーザーの快感を探ることができる。
読み進めていくうちに、女風のセラピストの施術とプライベートでのセックスとは、同じ性的な行為であっても相異なるものであり、それを比べても仕方ないことに気が付いた……と、官能小説でありながらも女風の入門書のようにも読んでしまったのだが、もちろん濡れ場はドエロくて刺激的。男性はもちろんのこと、女性も楽しめる作品となっているので、女風ユーザーはもちろん、女風に興味があるけれども、踏み込めずにいる方が読めば、一歩踏み出す勇気が出る……というかムラムラして「もう我慢できない!予約を入れる!!!」となるのではないだろうか。
『女風 歌舞伎町のセラピスト』著:草凪優 実業之日本社、文庫869円、Kindle852円(ともに税込) Amazonリンク https://amzn.asia/d/c8cGR8n
Writer:大泉りか
コメント